乳がん

乳がんとは

胸に手を当てる女性乳がんは、女性に最も多く発症するがんです。日本では年間約9万人の女性が乳がんと診断されており、年々増加傾向にあります。生涯のうちに乳がんになる女性は、現在は9人に1人とされています。年齢別にみますと、日本女性の乳がんは、30代後半から増加し、40代後半にピークがあり、女性が社会や家庭で活躍する年代に多いのが特徴です。さらに、閉経後の60代前半にもピークがあり、欧米化に伴い60~70代の乳がんも増加してきています。

一方で、がんの死亡率が最も高いのが大腸がんで、乳がんは第5位となります。このことから、乳がんはかかる方は多いですが命を落とす率は低く、早期発見・早期治療により、完治が望める疾患でもあるといえます。早期発見のためには、定期的に乳がん検診を受けていただくことと、ご自身で日常的に乳房を意識することが大切です。

乳がんの症状

乳がんの主な症状は、乳房のしこりです。ただし、発生する部位やしこりの大きさによっては手で触れづらいこともあり、症状のない場合もあります。他の症状としては、赤~茶色の乳頭分泌(出血)、乳頭乳輪部の湿疹やびらん(ただれ)、乳房皮膚の陥凹や変形、乳房の発赤や腫脹などがあります。

乳がんの診断

診察はじめに問診にて、いつからどのような症状があるか、月経の周期で症状の変化はないか、痛みを伴うかなどをおうかがいします。問診は、乳がんの診療のうえでも大切な情報となります。その際、乳がん検診受診歴および直近の検診結果、ご家族に乳がんにかかった方がいらっしゃるかどうか、治療中の疾患や過去にかかったことのある疾患についても確認させていただきます。

次に視触診にて乳房を観察し、手で乳房やリンパ節の状態を診察します。乳房にしこりがないかどうかを確認し、しこりがある場合は、その状態を調べます。他に、皮膚の変化や、乳頭分泌の有無、リンパ節が腫れていないかなども確認します。

問診・視触診の情報から、必要な画像検査(マンモグラフィ、超音波(エコー)等)を検討し、実施します。原則、当日検査を行い、結果までご説明いたします。

その他の画像診断として、MRI検査(後日)を行うことがあります。MRI検査は、乳がんと診断された場合、その広がりを確認するために行うことが多いのですが、病変の良性か悪性かの診断が難しい場合にも行うことがあります。当院では近隣の医療機関に依頼して実施しております。

これらの画像検査にて、良性か悪性かの鑑別が必要な場合や、悪性の可能性がある場合は、局所麻酔下でやや太い針を刺して組織を一部採取する組織診(針生検)が必要となります。乳がんの確定診断は、組織診をもって行われます。採取された組織を顕微鏡の検査に提出し詳しく調べますので、結果がでるまでは約2週間かかります。

乳がんと診断された方には、現在の状態および標準治療についてご説明し、治療する医療機関については、お住まいや職場からのアクセスを考慮したうえで、ご本人の希望される医療機関にご紹介させていただきます。心配事や疑問点などが解消できるよう、相談室も設置しておりますので、何でもお気軽にご相談ください。

乳がんの治療

乳がんの治療は、局所治療と全身治療にわけられます。局所治療は、乳房にできたがんを取り除く治療で、治療法には手術、放射線治療があります。全身治療は、リンパ管や血管を介した転移・再発を予防する治療で、薬物治療が行われます。

  • 手術:乳房温存術、乳房切除術、センチネルリンパ節生検・リンパ節郭清、再建術など
  • 放射線治療:乳房、所属リンパ節への照射
  • 薬物療法:内分泌治療、抗がん剤治療、分子標的薬治療など
  • ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation therapy:RFA)

初期の乳がんでも、局所治療と全身治療を組み合わせて行います。どのような手術になり、どのような治療を行うかは、画像検査や組織診からわかる進行度やサブタイプ(がんのもつ性質)により判断します。その他、ご本人の年齢やライフスタイル、他に治療されている疾患等によっても考慮されます。

治療が必要な方へは、主治医よりご説明させていただきますのでご安心ください。

遺伝性乳がん

乳がんの多くは遺伝とは関係なく発症しますが、乳がんの約7-10%程度は遺伝によるとされており、遺伝性乳がんの代表的なものとして「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC:Hereditary Breast Ovarian Cancer)」があります。乳がんの原因となる遺伝子の代表的なものがBRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子で、卵巣がんの発症にも関与しています。

実は、がん細胞は、人の身体の中で毎日発生しています。それでも毎日がんが発生しないのは、体の免疫力が未然に防いでいるためです。BRCA1/BRCA2遺伝子もみんなが持っている遺伝子で、細胞内の遺伝子に傷ができたときに、この傷を修復して、がんの発生を抑制する働きがあります。しかし、生まれつきBRCA1/BRCA2遺伝子に異常があり、本来の機能が失われると、乳がんや卵巣がんが発生しやすくなることがわかっています。

以下のような場合に遺伝性乳がんの可能性が疑われます。

  • 45歳未満で、乳がんと診断された方
  • トリプルネガティブ(乳がんのサブタイプ)、両側乳がん、2カ所以上の乳がん、男性乳がんなどに該当する
  • 血縁者で乳がん、卵巣がん、すい臓がんなどになった方がいる
  • 血縁者で既に遺伝姓乳がんと診断された方がいる

などが挙げられます。ご自身が該当するかもしれないという場合は、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。詳細は、主治医にお尋ねください。

もし、BRCA1/BRCA2遺伝子に異常があった場合、一般の方と比べて乳がんを発症するリスクは高くなり、80歳までに乳がんを発症する確率が約70%程度とされています。卵巣がんについては、BRCA1遺伝子の異常で約40%、BRCA2遺伝子の異常で約20%程度です。ここで重要なことは、全員が乳がんや卵巣がんを発生するわけではないということです。遺伝子に異常が発見された場合の対策として、サーベイランス(早期発見のための定期的な検査)、リスク低減手術などがあり、個別の対応となります。

遺伝学的検査は、採血で行われます。主に自費ですが、一部で保険適応となる方もいらっしゃいます。当院を受診された方で、遺伝カウンセリングや遺伝子検査をご希望の場合は、実施可能な医療機関へご紹介させていただいておりますので、受診時にご相談ください。

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